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第44話 近づく足音

Author: marimo
last update publish date: 2026-07-05 13:06:16

 夜は、妙に静かだった。

 久遠ひかるは、自宅マンションの窓辺に立ち、街の灯りをぼんやりと眺めていた。高層階から見下ろす道路には、途切れることなく車のライトが流れている。それなのに、音だけが遠い世界の出来事のように感じられた。

 今日一日、胸の奥に沈んだ違和感が、まだ消えない。

 ――どうしても、ひかると、金の話をしたいんだ!

 あの叫び声。

 聞き間違えるはずがない。

 黒崎俊哉の声だった。

 思い出したくもないのに、記憶は容赦なく蘇る。

 二年間。

 長かったのか、短かったのか、今となっては分からない。

 ただ、あの家で過ごした時間は、色を失っていた。

 朝、まだ暗いうちに起きて掃除をする。

 洗濯機を回し、朝食を用意し、彼を送り出す。

 昼は買い物と作り置き。

 夜は帰宅時間に合わせて食事を温め直す。

 誰にも知られず、誰にも気づかれず。

 まるで、自分という存在を消すことが役割のようだった。

(……私、どうしてあそこにいたんだろう)

 答えは、分かっている。

 逃げていたのだ。

 すべてから。

 女優としての自分からも、天城蒼真からも、そして――自分の弱さからも。

 初めて俊
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